「土地と人を感じる」がテーマの書店

青熊書店

創の実 自由が丘

JIYUGAOKA

OWNER

岡村 フサ子

OKAMURA FUSAKO

別々の文化圏で育まれた本や雑貨を一緒に並べることで化学反応を起こしたい

 私は、生まれ育った熊本県が大好きです。雄大な阿蘇や天草の海、熊本城といった観光地があり、地下水など自然の恵みが豊富です。食べ物も美味しく、何より、熊本県には素敵な人たちが沢山いるんです。熊本は、私にとって自慢のふるさとです。
一方で、私の夫は青森県で生まれ育ちました。青森県もまた、数々の名勝地をはじめ海の幸・山の幸に恵まれる素晴らしい地域です。夫もまた、ふるさとである青森の存在を大切に思っています。

 そんなふうに、「大切に思うふるさと」や「なじみ深い地域とのご縁」を持つ人は多いのではないでしょうか。そして東京都は、そんな多種多様なふるさとの面影が集まるノスタルジーの宝箱みたいな地域とも言えます。
そこで『青熊書店』では、まず私たちが推す熊本や青森にまつわる本や雑貨をメインに取り揃えようと考えました。別々の文化圏で育まれた本や雑貨が肩を並べて一つの空間を飾ることで、訪れる人の中に眠る「たくさんのふるさと」を呼び起こし、固定観念のブレイクや新たな発見を促す「化学反応」を起こすことができれば嬉しいなと思っています。

PICK UP

青森、熊本にゆかりのある本を中心としたラインナップ

現在店頭に並べているのは、書籍約1000冊と、「読書のおとも」として提案するブックカバーなどの雑貨類。青森の棚には太宰治や寺山修司、ナンシー関など青森県出身の作家のものを、熊本の棚には石牟礼道子や坂口恭平など熊本県出身者のほか、熊本の第五高等学校(現・熊本大学)で教鞭を執った夏目漱石などゆかりのある人物の著書を置いています。
書籍の約8割は古書で、私と夫がこれまでに集めてきた蔵書や、ご縁のあった方などからの買い取り分からスタートしました。レアで希少価値の高い本からどんどん売れているので、今後は仕入れのルートを増やして品揃えを充実させたいです。 

OWNER INTERVIEW

岡村 フサ子

OKAMURA FUSAKO

「頭と心に余白が欲しい人」に豊かな読書時間を過ごしてもらえる一冊を提案したい

「自分で本屋になっちゃえ!」というコピーを見て書店業にチャレンジ

 書店を開くきっかけになったのは、2022年、神保町で共同書店「PASSAGE by ALL REVIEWS(パサージュ・バイ・オール・レビューズ)」がオープンすると聞いたこと。この書店では1棚単位で貸し出しをしていて、各棚の借り手は「棚主」として自分たちの“推し本”を販売できるという仕組みです。最初は遠慮する気持ちが強かったのですが、書店の店頭にあった「なら、自分で本屋になっちゃえばいいじゃん!」というキャッチコピーを見て、思い切ってやってみようかな、と考えました。

 それまで編集者として働いてきた私にとって、本を売るのは初めての経験でした。そこで身に染みたのは、「何が売れるのかは、お客さまが教えてくださる」ということです。その言葉は、修行させてもらった神保町の古書店主が教えてくださったものです。また、編集者時代に熊本で取材した老舗そば店の大将から、似た言葉を聞いたことがありました。当時は本当の意味は分かっていませんでしたが、自分で商売を始めてみると、大将の教えが腑に落ちました。共同書店の小さな棚であっても、本の売れ行きを見ると時代が求めているものが分かり、とても面白いです。次第に、本の最前線にもっと関わりたい、という気持ちが強くなり、書店業に本格的に着手しようと決心、古書店やブックカフェで約1年間修行して経験を積みました。

店舗運営費やサポート体制などを総合的に判断して出店を決意

 古書店などで働き始めてから数カ月経った頃、私は修行のかたわら、開店のための情報収集を始めました。そして書店向きの物件をネット検索していたとき、スマホに「創の実」の出店者募集の広告が表示されたのです。最初は気に留めていなかったのですが、「創の実」が東京都の事業であることが分かって安心し、クリックしてウェブサイトを読み進めました。
「創の実」の店舗は4~5坪の広さです。本を陳列するためにはある程度のスペースが必要ですし、私が好きな書店の多くが15坪前後の広さだったこともあって、当初は「創の実」では狭いかなと考えていました。しかし、世の中には3坪程度で個性的な品揃えをして成功している書店もあります。また、店舗運営費の安さやサポート体制の充実ぶりなどを総合的に考え、「創の実」への応募を決めました。

 「創の実」の出店費用は月額36,300円(税込み。商店会費用や水道光熱費は別途必要)と安価ですが、売り上げが伸びなかったらどうしようと不安もありました。ただ、うまくいかなかったらそれを課題に置き換えて対策を練ればいいし、書店の現状や課題をエッセイやコラムにして発信する手もあると考えて、思い切って出店に至りました。

 「創の実」に出店する方の中には、出店から半年後の契約期間満了をもって自分のお店を開く人もいらっしゃるようです。しかし私は、まるまる1年間「創の実」で頑張り、いずれ本格開業する時のために経験を積みたいと考えています。

読書会の開催や選書サービスで交流の機会を増やしたい

 私が本を届けたいターゲットの1つは、「頭と心に余白が欲しい人」です。仕事や人間関係などで疲れていて、頭や心が常に張りつめている状態の人もたくさんいると思います。そんな時に新しい本、つまりは新しい世界と出合うことで、日々がほんの少し潤うお手伝いをしたいです。 また、書店とは交流の場でもあると考えています。『青熊書店』ではお客さま同士が「推し本」を紹介し合ったり、好きなお店や地域を情報交換したりできるようになったらいいなと思っています。そのために、読書会やワークショップを定期的に開くなど、コミュニケーションが生まれるきっかけ作りに取り組みたいです。

 今後は、「選書サービス」の提供を検討しています。
「今の気持ちにピッタリ合った本はありますか?」とか「友人の記念日に本を送りたいのですが」などの相談に対し、お客さまそれぞれに合った提案をしていきたいです。そういう機会を増やすことで、一人でも多くの方に豊かな読書の時間を過ごしてもらいたいと思っています。そしていずれは、お客さまと「ただいま」「お帰り」と声を掛け合えるような、そんな居心地の良い書店に育てて行けたらいいですね。

PROFILE

出身地である熊本でタウン誌編集者やフリー編集者として働いた後、2008年に上京。編集プロダクション勤務のかたわら、イシス編集学校に入門して編集工学を学んだ。2022年、千代田区神田神保町の共同書店「PASSAGE by ALL REVIEWS」で自分の棚を持って書店業に乗り出す。2023年には編集プロダクションを退職、古書店で約1年間修行した後、2024年1月より「創の実」自由が丘に『青熊書店』として出店中。